Production I.G/GAINAX『フリクリ』

ロボット的なものがでてくるので無理矢理ロボットアニメと見なすこともできなくはない。というわけで以下『フリクリ』をロボットアニメとして理解する試み。

話はというと、ある女性(ハル子)が謎の力が欲しくてそれを獲得するためにある少年(ナオ太)を利用する。つまりその少年をギターだかベースだかで殴り頭からロボットを引き出す。そのロボットと少年は結果的には彼女が欲しいなぞの力を引き出すための鍵のようなもので、じじつ、街に突然(でもないが)現れた巨大な手にある穴にそのロボットとナオ太が入り込むと力が発動する。しかしハル子の意に反してその力は少年と同一化してしまう(このときロボットも同一化したのかもしれない)、つまりナオ太に力を奪われてしまう格好になる。というわけでラストバトル、ナオ太対ハル子。しかし最後にはその力はナオ太の身体から脱し、どこかへいってしまう。結局ハル子はその力を追ってナオ太のもとを離れる。

まあこんな話だ。ここででてくるロボットについて説明すると、頭から引き出されたあと、ロボットはなんかお手伝いさんみたいな感じで少年と(居候しているハル子と)一緒に暮らしだす。そして何か戦う必要性が生まれたときには単独で戦ったりするのだが、よりパワーアップするためにはナオ太を食って(?)しまうことが必要となる。ちなみに戦闘のあとには排泄するようにしてそのナオ太を放り出す。ロボットの体内にいるあいだ、彼は意思を表明したりすることはできない。戦っているのはあくまでロボットであるように見える。要するに操作はしていない。ただ命令している人はいるように思われる。それがロボットを引き出すためにナオ太をひっぱたいたハル子だ。

ハル子にとってはナオ太もロボットもその力を手に入れるための一種の通過点にすぎない。ロボットを例によって媒介、あるいは手段と位置づけるならば、ハル子にとってはナオ太も同様で、彼女にとってはふたつのロボットがいるにすぎない。主人公自身が媒介であるという点においては『ローゼンメイデン』シリーズと通じるところがある。しかし『ローゼンメイデン』とちがって、『フリクリ』では主人公のナオ太は戦闘中にはほとんど意識がないというか、ほとんど戦っていない。ロボットに飲み込まれているからだ。唯一の例外がでっかいボールを打つところか。あれを戦闘と呼ぶならば。おそらくこの作品では日常生活の場面と戦闘の場面とで断絶があるように思う。日常生活ではナオ太のたるいモノローグが挿入され、思春期前後的なウダウダが展開するのだが、戦闘になると一変する。そういうたるさがなくなる。ロボットも日常生活ではほとんど空気だが、戦闘ではいきなり活躍する。

興味深いのはロボットとナオ太の類似性というか等価性だ。例外的にその兵器としての破壊力ゆえに主導権そのものを争うということはありうるが、ロボットとはつねに何か別のものを目指すための手段でしかない。そうである限り本質的にはそれがロボットである必要は必ずしもない。ナオ太も同様に、ハル子にとっては謎の力を手に入れるためのかませ犬的な存在でしかない。そしてもう一人のヒロインであるマミ美にとってもいなくなってしまったナオ太の兄の代わりの存在でしかない。じじつナオ太が去ったあと、今度は彼女は変な機械をナオ太の兄の代わりとして扱うことになる。『フリクリ』においてナオ太は、ロボットと同様に代替可能な手段、媒介でしかないのだ。『攻殻機動隊』においてはそれでもまだゴーストという代替不可能なものがあった。しかしこの作品においてはそういうゴーストの有無とかそういうのとはべつの次元で、主人公とロボットがつながる。

ちょっと余談になるが、代替可能性としてのロボットという問題は、たとえば『エヴァ』などに見られる操縦者と内面的に接続するロボットにおいては出現しない。エヴァは操縦者を選び、その意味で代替可能ではないからだ。またロボットが突出して他の兵器よりも強力である場合、そして様々な外的な要因によって量産が不可能な場合、この代替可能性の問題は隠蔽される。しかし本来ならば、ロボットが主に活躍する場である戦争においては、兵器だけでなくそこに参加する人間たちもすべて代替可能性になってしまうはずだ。そこに戦争の非人道性があるはずだ。ある意味では、『フルメタルパニック』とは代替可能性が支配する世界で生きてきた主人公が、様々な代替不可能性を見出す物語であると見なすこともできる。

まあそれはともかく、『フリクリ』では代替可能性とは、ある人間関係のあり方であり、それは、それがどんなに空虚でむなしいものであったとしてもなくなることはなく、我々は代替可能性を不可能性に替えることによって生きていくのではなく、両者を両立させながら生きてくのであるということを示しいてるように見える。その意味で『フルメタルパニック』よりはリアルかなと。