サンライズほか『機動警察パトレイバー』OVA、TV版

以前劇場版のパトレイバーについてはちょっと書いたが、そのあとOVA、テレビシリーズ版も見て、一応一通りパトレイバーシリーズについては全部見た。ただそれを見たのも大分前なのでかなり忘れてしまっているが、これ以上忘れないためにちょっとだけ書く。
書き残しておきたいことは、テレビシリーズ、とりわけその後半のことについてだ。その前に以前にも書いた劇場版『パトレイバー』におけるリアルロボット的な問いについて。二つのことが重要だった。つまり量産可能性とすべての人による操縦可能性だ。今ある技術や資源で生産できるものである以上、この世で一つしかないロボットとかはあり得ない。舞台は警察であり、研究機関ではない。つまりすでに実践可能なものしか舞台には上がれない。また量産型である以上、ある特定の人しか操縦できないということでは使えない。この二つの要素をふまえた上で物語が進行するわけだが、このある種の縛りはパトレイバーを所有する警察側のみに課せられるわけではない。「敵」も同様にこの制限を受けるはずだ。この点を出発点として押井の「敵」なるものに対する考察が展開される。ここでの問いは、「敵の脅威とは何か」ということだ。上記二つの制限が敵の側にも課せられるわけだから、その答えが「ものすごく強いこと」であることはあり得ない。謎のテクノロジーとかオーパーツとかはあり得ない。しかしそういった「強力さ」に頼らずともより恐ろしい脅威があることを押井は知っていた。そしておそらくこのことは現実の状況とも一致しているのではないだろうか。それは一言でいって不可視性だ。このことは『ARMS』におけるガウス・ゴールがいう「最も多くの人を殺した兵器は毒だ」という言葉とも関連している。毒が脅威なのはそれが毒かどうか容易にはわからないからだ。まあそれはいいとして、こういった不可視である敵に無駄にでかいロボットはあまり役に立たない。『ARMS』ではあのジャバウォックでさえも毒には苦しめられた。まず第一に敵を可視化しなければならない。そのための捜査だ。そう考えると舞台を警察にしたということは非常に示唆的だ。こういった問いをあらかじめ問うていたかのようだ。じじつOVA版前期のヤマ場ではテロが描かれていた。テロとはまさに不可視性の脅威のことだ。
ここで問題にしたいテレビシリーズにおいては上記の劇場版で展開された問いに関連した別の問題が示されている。とりわけシリーズ終盤において。それは操縦者(野明)とロボット(アルフォンス)との関係性だ。作品を見ればすぐわかるように、野明はシリーズ当初から自らが操縦するロボットにアルフォンスと勝手に名付け、異常な愛着を示している。新型のレイバーが納入されるかもしれないというときには激しい抵抗を示した。このことにはある種の原体験、飼っていたペットが亡くなってしまったときの喪の感情が関係している。野明自身はこういった喪の感情は乗り越えなければいけないということを知っていた。なぜならば彼女の場合、こういった喪の感情は対象に対するある種の依存からきていたからだ。その意味でいうと、テレビシリーズはそういった依存を自覚しそれを乗り越えるという野明の成長の物語ということもできる。そしてその成長の跡を劇場版第二作目の野明の言葉に見ることができる。

あたし、いつまでもレイバーが好きなだけの女の子でいたくない。レイバーが好きな自分に、甘えていたくないの。

この引用は以前のエントリーでもしたのだが、こうしてみるとこの言葉はテレビシーズからの問いを引き継いだものだと考えることができる。

このように考えることができる。つまり、押井的なリアルロボット的問いは結果的には物語におけるロボットの占める位置を限りなく縮減することにつながった。しかしそれだけではない。彼は登場人物のロボットに対する依存も解消しなければいけないと考えた。「彼は」というのはちょっと正しくないだろう。テレビシリーズの脚本は押井だけではないからだ。というか押井の脚本回はあまり多くない。なのでこのプロジェクト自体が問うてきた問題だといえばいいのかもしれない。『アニメ夜話』とかを見る限り、押井は原作クラッシャー、つまり何でも押井色に染めてしまうとかいわれているらしいが、パトレイバーに関しては意外とそうではないのではないかということができると思う。OVAやテレビシリーズでとわれていた問題が正確に劇場版に引き継がれていたということができると思われるからだ。

さいごに、テレビシリーズにおける押井脚本回についてだが、まあ押井の脚本だということを前もって知っていたので色眼鏡で見てしまったのかもしれないが、やはりほかの脚本家とは違う特徴があったと思う。まず第一になぞの生物とか強力な怪物とかはでてこない。それよりも手持ちの札で何ができるかということが問題になったりする。限られた時間内でいかに榊にばれないように海に落ちたレイバーを引き上げるか(第03話)。陸の孤島で食料を確保するためにどうするか(第29話)。その意味では押井がこのプロジェクトにおいて際立っていた部分はあるのかもしれないが、劇場版だけを抜き出して考えるよりも、『パトレイバー』シリーズ全体で考える方がいろんな意味で有効かなとは思う。