BONES『スクラップド・プリンセス』

逢坂浩司追悼第2弾。いろいろこの『スクラップド・プリンセス』の評判をネットで見てみると悪い話は聞かない。前々から気になっていたんだけどこの機会に見てみた。世界に災いをもたらすとされている「廃棄王女」たる主人公パシフィカがそのために王国の軍に追われるというストーリー。ちなみにエンディング曲がなんというかZABADAK系で、上野洋子が歌ってる。彼女は結構多くのアニメにオープニング、エンディングにかかわっているが、ZABADAKの曲が似合うアニメってのは結構あって、あるジャンルを形成しているような気がする。『灰羽連盟』とか…。それぐらいしか浮かばないが、まあよい。たしか上野洋子ってランティスと関係が深かったので、彼女がかかわってる作品は多いと思うが。いずれにしてもこの『スクラップド・プリンセス』もそれに含まれると思う。

なんで廃棄王女たるパシフィカがねらわれているかというと、この物語の舞台で支配的な宗教、マウゼル教の託宣によれば、その名前に反して(というか廃棄王女として捨てられたからこういう平和的な名前をつけられたのだが)彼女が世界を破滅に導くとされているからだ。ではその世界とはなにか? まあこれがこの作品の一番の問いだと思う。マウゼル教があがめるのはマウゼルという神なのだが、そのもとにはピースメーカーと呼ばれる強大な謎の力を持った生命体(兵器)がある。それらが軍に間接的に支持してパシフィカをねらわせ、自らも彼女を追う。彼女はピースメーカーの力を無力化させ、ピースメーカー自身では決して彼女を攻撃できないので、脅威だからだ。ピースメーカーは何千年も愚かな人類の所業を見つめてきた存在だが、彼らも長いこと戦いを繰り返してきた。それはドラグーンと呼ばれる者たち(兵器)で、通常は人型だが、戦闘時には巨大な竜となってピースメーカーと戦う。問題なのはドラグーンの側とピースメーカーの側で言い分が全く異なるということだ。ゼフィリスと呼ばれるドラグーンの一人の説明によると、もともとピースメーカーとドラグーンはもともと同じ兵器で地球外からやってきて攻撃をくわえてきた謎の敵を迎え撃つために開発された。しかしピースメーカーたちは人間たちを裏切って敵方に寝返った。だとすればピースメーカーたちこそが人類を滅ぼす元凶となるはずだ。しかし当のピースメーカーたちはこういった見解に反対する。そもそも謎の敵ってなんだ? もしドラグーンたちがいっていることが本当なら、その敵はわざわざピースメーカーを懐柔するより直接やっつければいい。しかしそんなことはついぞない。
問われなければならないのは、ドラグーンがいっている世界とピースメーカーの世界が同じものかどうかということだ。この問いの答えは最終話において明らかになるだろう。最後に「世界とはなにか」という問いに明確な答えが与えられるにしても、重要なのはそれまで世界というものに対する解釈は統一されておらず、そのために何が「世界を救う」ことになるのかということについてもそれぞれ解釈が異なる。
思うに、「セカイ系」に分類される物語においては「世界」は単一だ。正確にいえば、世界に対する単一の解釈をすべての人が共有している。以前のエントリーでは世界系の唯名論について語ったが、それはみんな「セカイ」という言葉の意味、内実が問題なのではなく、「セカイ」といっていることが重要だからだ。意味が問題にならない以上、その多義性は問題にならない。だから世界を救うといった時、その意味するところは誰にとっても明らかだし、一義的だ。『スクラップド・プリンセス』にはそれがない。あたかもこの物語の目的は世界を救うことではなく、何が世界を救うことになるのかを知ることにあるかのようだ。

というわけで次は『桜蘭高校ホスト部』かな。